加齢黄斑変性とは
目に入った光は、網膜(もうまく)に達した後、脳で認識されます。網膜を正面からみると、中心部分に、ほかの部分より少し黄色く見える部分が黄斑(おうはん)です。 黄斑は物の詳細を見分けたり、文字を読んだりするのにとても大切な場所です。
加齢黄斑変性は網膜の黄斑が傷んでしまう病気です。原因としては、遺伝的な素因をもとに、生活習慣(食事や喫煙)や高血圧、光刺激など長年の積み重ねにより発症すると言われています。
加齢黄斑変性の初期症状で、よくある症状が「ゆがみ」です。これは黄斑部に水がたまることにより腫れて、網膜自体が変形することによります。悪化してくると、中心部が暗くまたは、黒く見えたりして、中心部が見えなくなり視力が下がってきます。進行すると完全に失明することもあります。定期眼科検診で徴候を早期に発見することが大事になります。
※眼科での「視力」という言葉は、「矯正視力」のことを言います。「視力が下がる」ということは「眼鏡やコンタクトレンズなどで矯正しても見にくい状態」であることを意味します。
加齢黄斑変性は早期発見、治療が重要
かつて日本では加齢黄斑変性は珍しい疾患でした。原因はまだ不明ですが、近年加齢黄斑変性を有する方が増加しており、日本の加齢黄斑変性有病率は、50歳以上の約1.2%(80人に1人)であり年々増加する傾向にあります。また後天性失明疾患第4位になります。
欧米では後天性失明疾患1位が加齢黄斑変性で、喫煙との関連性が示唆されていますが、当院を受診される患者さんの殆どは喫煙歴がありません。
加齢黄斑変性は完治が大変困難な疾患です。多くの場合、治療しても再発するので、定期的に治療を受けられる方も多く、そのため定期的な検査を要します。
加齢黄斑変性の自覚症状には歪視(線がゆがんで見える)があります。すでに歪視を自覚している場合、歪視を治すことは難しく、自覚症状が出る前に兆候を発見し疾患を抑え込むことが大事になります。緑内障や加齢黄斑変性のリスクが高まる40歳以上の方は、定期的(年1回以上)に眼科検診を受けることをおすすめします。
加齢黄斑変性は数回の治療で視力や病態が改善することもありますが、治療効果が出にくい症例や、頻回の追加治療が必要となる症例もあり、症例ごとの個別化診療に努めています。加齢黄斑変性は以前と違って、有効な治療や予防が可能な病気に変わりつつあります。予防や検診、治療を積極的に行うことが、生活の質の改善につながります。
加齢黄斑変性の症状
黄斑部の病気は目の見え方に異常が現れるため、自覚症状につながる可能性が高い疾患です。
自覚症状は病気の進行具合によって異なりますが、初期は、ものがゆがんで見える、中心が見づらい、視界の真ん中がグレーになってかすむなどの症状が多く、進行すると、真ん中が真っ暗になって見えなくなります。片眼にのみ症状が出た場合は、症状に気付きにくいことがあります。また、日常生活に支障がないという理由やお仕事で忙しいからの理由で放置されることがあります。
日頃から、片目をふさいで、左右のそれぞれの目の見え方を自分で掲載の「見え方チェックシート」で確認してください。
進行性で失った視力を取り戻す治療が難しい病気です。もし何らかの異常があった場合は、速やかに当院を受診ください。
見え方チェックシート
- 目から30cm位チェックシートをはなす(メガネはかけたまま)。
- 片目ずつ、格子の中央の黒い点を見る。
- 線がゆがむ、中心が見えない、一部が欠けて見えるなど、見え方がおかしいなら、すぐに眼科専門医を受診。
見え方のイメージ
変視症
見たい部分がゆがんで見えます。
中心暗点
見たい部分が黒くなって見えます。
加齢黄斑変性の種類
(1)前駆病変
網膜に軽い異常、ゆがみを自覚することがあります。
(2)滲出型(血管新生を起こすもの)
滲出型は、欧米人にくらべ日本人に多く、突然見えなくなることがあり、進行が速く、治療を躊躇していると、深刻な網膜の障害を残してしまう種類です。
血液成分が漏れ出して網膜がむくみ、ゆがみなどの症状が出ます。活動性が高くなると出血がおこり、中心が暗く見えにくくなり、視力が低下します。
中心PCV(血管腫様病変)暗点
出血・漿液性色素上皮剥離をおこす、血管の先端がこぶ状(ポリープ)になる
RAP(網膜内血管腫様病変)
新生血管が網膜内に起こり、予後不良のことが多い
(3)萎縮型(血管新生を起こさないもの)
黄斑の組織が加齢とともに萎縮する現象。欧米人に多く日本人に少ないタイプです。ゆっくりと網膜が障害されていきます。効果的な治療はありません。軽い視力低下に留まることが多いですが時に視力がかなり低下することもあります。
加齢黄斑変性の治療
治療には3種類あります。
(1)光線力学療法
(2)硝子体注射
(3)通常レーザー治療
(1)光線力学療法
光線力学療法は特殊な薬(ベルテポルフィン:ビスダイン®)を点滴したあとに、遠赤外線レーザーで疾患部位に照射する治療です。レーザー治療の痛みはありません。
日本人は加齢黄斑変性の原因疾患として脈絡膜血管腫様病変が多いとされ、光線力学療法の反応が良いと報告されています。
(2)硝子体注射
加齢黄斑変性が著しく進行した場合、広範囲に渡る場合は光線力学療法での治療は大変困難です。眼球に直接注射することで広範囲に及ぶ加齢黄斑変性の治療を行うことができますが、感染性・無菌性眼内炎のリスクが一定の割合で発生します。疾患によっては2ヶ月から数ヶ月に1回定期的に眼球に注射する必要があります。加齢黄斑変性の原因疾患としての脈絡膜血管腫様病変には硝子体注射の反応が悪い症例があり、光線力学療法の適応となります。
(3)通常レーザー治療
加齢黄斑変性の治療適応となりますが、強力なエネルギー照射を伴いますので、網膜の障害が強く、視力障害・視野欠損を生ずる恐れがあります。
生命保険の適応について
光線力学療法、硝子体注射、通常レーザー治療はいずれも健康保険適応ですが、光線力学療法と通常レーザー治療は日帰り手術なので生命保険の適応となることが多いです。
硝子体注射は手術ではありませんので、生命保険の支払い基準は加入されている生命保険会社にお問い合わせ下さい。
加齢黄斑変性治療までの流れ
当院で治療している加齢黄斑変性は、視覚異常の出ていない初期の方を対象としています。歪視や視野欠損を生じている加齢黄斑変性は硝子体注射適応がほとんどであり、当院では硝子体注射治療をしていません。硝子体注射適応症例の方は治療が可能な病院をご紹介いたします。
眼底検査と自発蛍光検査で偶然発見された加齢黄斑変性の患者様は同意の上、蛍光眼底造影検査を行います。病変部位から造影剤の漏れが確認された場合のみ治療を行います。
蛍光眼底造影検査の造影剤はヨード剤を使用した造影剤とは異なり、100%合成薬品で体には無害ですが、まれに蕁麻疹(じんましん)・血圧低下、アレルギー反応などの副作用が起きることがあります。
検査中に何か異常を感じたら、速やかに医師に伝えてください。